COLUMN

2019年12月23日

コミュニケーションの場となる空間のつくり方 Vol.3
サステイナブル・デザインをテーマにしたアパレル店舗での展示:ZARA JOIN LIFE EXHIBITION


デザイナー 鬼木孝一郎
ZARA JOIN LIFE EXHIBITION
『エルメス祇園店』や『THE GINZA COSMETICS』をはじめ、
さまざまな商業施設・店舗のデザインを手がける鬼木孝一郎さん。
コミュニケーションの場となる空間をデザインするためのヒントをうかがいました。
2018年に開催された『JOIN LIFE EXHIBITION』の空間デザインについてお聞きします。アパレルブランドのZARA(ザラ)様によるJOIN LIFE PROJECTは、素材の再生や生産工程の工夫で環境負荷の少ないものづくりを目指すものでしたが、その世界観を再現する期間限定イベントですね。
鬼木さん(以下:鬼木)
はい、会場となったZARA六本木店は、ポップアップストアとして、もともと実験的に使われています。通常の店舗とちがって、ショールーミングに特化した、まるで大きなフィッティングルームのような扱いです。この店舗で試着してオンライン上で商品を購入するなど、これからのアパレル店舗の在り方を実験しています。この店舗の中心部分を2か月に一回くらい入れ替えていくんですが、そこで、このJOIN LIFE EXHIBITION展のお話をいただきました。
アパレル店舗の雰囲気のなかで持続可能性というテーマを伝えることは大変だったのではないかと想像しますが、どのように進みましたか?
鬼木
そうですね、JOIN LIFEのプロジェクトは何なのかといえば、いわゆるサステイナブル・デザインとして、持続可能だったり再利用可能なものをつかって商品をつくっていくことです。再生した布だったりペットポトルを粉砕したものから生地をつくったり、無農薬コットン、環境に配慮したファブリック、こういった素材や、それからできる服を見せていきたい、というのが展示のコンセプトでした。
服は服、素材は素材、とバラバラにするのではなく、素材、それからできるファブリック、そしてそのファブリックを使ってできた服、という一連の関係性が直感的にわからないと面白さは伝わらないだろうと考えました。異なる要素をできるだけ近く、対等に見せるために、3つの展示物が同じフォーマットで光るハンガーにかかっているという形にしました。9種類に対応する9セットを用意しています。
この発光パイプなどの什器はこの展示のために独自につくられたようなので、ご苦労があったのでは?
鬼木
そうなんです。とくに、光るハンガーパイプには苦労しました(笑)。実際に何度かモックをつくりますが、照明器具やアクリルのカバー自体に力をかけるわけにはいかないので、実は中にスチールのバーを仕込んであります。でもスチールを目立たせたくないので、荷重を支えられる最小寸法を検討しながら、また、パイプ自体も太くしたくなかったので、そういったバランスをどうするかも検討しました。
一般的なアパレル店舗に比べると、展示空間ということでお客様とのコミュニケーションが多そうですね。
鬼木
展示期間中に実際に訪問してみていると、お客様の滞在時間がかなり長くなっていましたね。素材のすぐ後ろに生地があるので、気軽に触り比べてみることができます。そうやって一つずつの素材に触れていくだけでも、それなりの滞在時間になるんです。服を選ぶとき、素材はタグでちょっと確認するくらいで色や形にフォーカスすることが多いかとおもいますが、元の材料や生地によって生じる質感や硬さの違いを触って感じ取ってもらえたのは嬉しいですね。とても微妙な差だったりするので、実際に体験していただける機会になって良かったです。
各国でさまざまなお仕事を手がけておられる鬼木さんにとって、デザインの原点とは?
鬼木
早稲田大学の附属高校から早稲田大学へと進学したんですが、早くから文系/理系と別れていたわけではなくて、そうやって方向性を考えるときに、当時は工作レベルだったけれど、ものづくりが好きだからという感じで建築学科を選びました。はじめはピンときてなかったんですが、3年生くらいになると自分で設計する課題が増えてきて、それまでの中学校や高校のような正解を求められる、つまり問いに対して〇か×かという教育とはまったく違うことに衝撃をうけました。先生によって考え方もバラバラですしね。そういう「正解がない」ところが面白いと感じて、それで建築やデザインにのめり込んでいきました。
これからのデザインについて考えていることを教えていただけますか?
鬼木
これまで物販などのデザインにかかわることが多くて、その中で楽しみにしていることがあります。いまはインターネットで簡単に物を買えるようになっていて、服を買ったりすることも、新しいシステムでどんどんと進んできました。こうして、あらゆる物をネットで買うようになるのかな、と感じています。
ではそうなると実店舗はどうなるんでしょうか? なくなってしまうのか、いまとは違う形になるのか、あるいはそのままかもしれません。今回お話させていただいたザラさんやザ・ギンザさんのこういうお店は、そういう意味でもとても面白いです。単に商品を売るという目的のためではなくて、お客様の滞在場所としてつくられているんですよね。こういった新しい形が、今後5年間くらいで見えてくるのかなとおもっているんです。
物販のブランドでは実店舗を減らしてEC(インターネット上での売買)に切り替えていくところが多い一方で、アマゾンのようなEC大手が実店舗をだしたりしているのは何なんだろう、と(笑)。実際の空間にひとが集まってコミュニケーションをとっていくことに、ブランディングやメッセージを伝えることの新しいあり方が見えてきます。これはデザイナーだけでできることではないのですが、ただ売るだけじゃない店をどう考えてデザインとして形にしていくのかにとても興味がありますね。

PROFILE

鬼木孝一郎KOUICHIROU ONIKI
デザイナー
1977年東京都生まれ。早稲田大学大学院卒業後、株式会社日建設計勤務。
その後、有限会社nendo入社。10年間に渡りチーフディレクターとして国内外の空間デザインを手がける。
2015年、鬼木デザインスタジオ設立。2017年、株式会社鬼木デザインスタジオに組織変更。
建築、インテリア、展示会の空間デザインを中心に多方面にて活躍。
Singapore interior design award 金賞、Architizer A+Award 審査員賞、日本インテリアデザイナー協会(JID)賞 入選、日本商環境デザイン協会(JCD)賞 入選など、国内外での受賞多数。
聞き手
牧尾晴喜HARUKI MAKIO

建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。

このコラムでは、人々が集う居心地のよいインテリア空間をつくりだしている、国内外で活躍されているデザイナーへインタビューをしていきます!

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