-資生堂の子会社ザ・ギンザ様、日本初となる旗艦店のファサード及びインテリアのデザインも手がけられましたね。こちらはどのような建物でしょうか。
鬼木さん(以下:鬼木):商品を販売するとともに、ブランドのことをより深く知っていただくためのお店で、1階のショップエリアのほか、地下2階にはイベントスペース、2階には会員制フロアがあります。それほど大きな規模ではないのですが、販売に付随する他の空間も集まっていて、ショップの構成として珍しくて面白い試みです。クライアントはお客様とのコミュニケーションを図りたいのだということを感じました。

1F THE GINZA COSMETICS
-エントランスにあるウィンドウディスプレイも手がけておられますね。鏡面仕上げの天板をグリッド分割して透明アクリルの支柱で高さを持たせるなど、かなり手が込んだ作業で、濃密な空間に感じられます。
鬼木:ありがとうございます。それぞれの高さや高低差・角度など、どのくらいにすれば山並みや水のうねりのように感じられるか、かなりスタディを重ねました。スチレンで原寸の模型をつくっていますが、スポットライトからの光の拡散など、現場に行ってからも各部を入れ替えて角度や高さを調整しながらつくっています。

THE GINZA COSMETICS
-地下のスペースでは、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんの写真展をはじめ、さまざまなイベントが開催されています。デザイン面ではどのようなことを意識されましたか?
鬼木:化粧品との直接的な関係にかかわらず、ザ・ギンザ様とコンセプトを共有できるひとたちの展示やセミナー、映画鑑賞などを多目的に開催したいというお話をいただきました。そこで、意匠的にあまり過剰なものはよくないと考え、美術館的なホワイトキューブをベースとしながら、「ザ・ギンザらしさ」を出せるように工夫しました。元々あった2層の吹抜け部分を活かして、大きな「鏡」の板が空中に浮いているようなデザインとしています。角を丸めた壁面・天井面とその中に浮かぶ鏡面の板で、無限の広がりや、ザ・ギンザ様が発信する新しい試みが世界へと広がっていくイメージを視覚的に表現することを目指したんです。

BF EVENT SPACE
-2階は大きなワンルームのような開放感がありますが、カウンターエリア、リビングエリアやダイニングエリアまで、さまざまな用途があるようですね。
鬼木:そうですね。実際にダイニングとして使われることもあるようです(笑)。セミナールームとして6名くらいで座れるテーブルとイスがあったり、お客様に基礎化粧品の使い方のレクチャーをしたり、といろいろな使い方をされています。
-ちなみにカウンターの裏の壁側にはスタッフ用としてクラムIIスタンド(相合家具製品)を2脚、選んでいただいているとのこと。ありがとうございます。経緯を教えていただけますか?
鬼木:この2階ではお客様が自由に居場所を見つけられるように、大きなワンルームのような開放感を持ちながら、シーンごとに使い分けができる構成にしています。エリアごとに視線の高さを変えていることもあって、じつはここのカウンターは微妙な高さになっているんです。そしてそういう高さだと、うまく合うスツールがなかなか見つからないんですね。また、お客様とスタッフの身長差にあわせて高さ変更ができたり、座面を変更したり、といったことが必要でした。そのため、相合家具の特注仕様で対応していただきました。スツールの脚を切って高さを低くしていただき、座面のレザーも指定のものに変更していただけて、ありがたかったですね。

2F MEMBERSHIP FLOOR
聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。