『エルメス祇園店』や『THE GINZA COSMETICS』をはじめ、さまざまな商業施設・店舗のデザインを手がける鬼木孝一郎さん。コミュニケーションの場となる空間をデザインするためのヒントをうかがいました。
-まずは、アパレルブランド「PUBLIC TOKYO」のショップデザインについてお聞かせください。
鬼木さん(以下:鬼木):「ALL MADE IN JAPAN」にこだわっているブランドのメッセージを伝えるために、日本らしさを取り込んだ空間とすること、また、カジュアルなデイリーウェアーを中心に扱うことから気軽に立ち寄れる場所とすることが求められました。さらには、母体となる会社、TOKYO BASE様が展開される3ブランドのなかでの立ち位置もあり、主要な素材として木を使っていこうという話がありました。
「PUBLIC TOKYO」という名前通り、日本を意識したデザインであり、ブランド立ち上げの当初から海外出店を見すえていたんです。そのような背景から、日本的な雰囲気をモダンで、なおかつ直接的でない方法でどうやって表現できるかを考えました。クライアントとのやりとりでは「こんなイメージ」として伊勢神宮が出てきたこともあるのですが(笑)、そこから何を読み取るかと考えるなかでたどりついたのが、「軒先空間」でした。
日本建築では玄関や縁側等の軒先空間は、出迎えやコミュニケーションの場ですし、そのイメージを店舗デザインとして展開できないか、と。店内の一部に下がり天井を設けてハンガーラックを吊るす構成として、日本建築で多く使われる“木”と“銅”を主要な素材として採用しています。銅も木とあわせてリクエストがあった素材なんですが、日本の伝統建築でも樋などでよく使われていますし、木との相性もよいですね。


-新宿、大阪、名古屋、香港など、国内外の各地で店舗展開されています。それぞれの物件で与条件も異なるかとおもいますが、いかがでしたか?
鬼木:当初から多店舗展開のリクエストがあって、そのようにデザインをしていたので、大きな問題はありませんでした。全体を構成する軒先空間というコンセプトについても、どちらかというと什器システムをデザインしたという感じですね。ですから、それぞれの物件で具体的な空間に対応していくうえで工夫は必要ですが、基本的にはどのような形状でも対応できます。
そういえば、最初の新宿店では、すこし心配もありましたね。ルクア大阪店の空間でデザインコンセプトを考えていたんですが、それに比べると新宿店は天井高さが2,500mmと低めで、そこからさらに下がり天井ですから圧迫感が出ないだろうか、と心配したんです。ですが実際に進めてみると軒下にくぐっているような感じで、結果的には低さゆえの落ち着きがある空間になって安心しました。苦労はありましたが、うまくいった事例ですね。

-家具についてお聞きします。アパレル店舗では、たとえば椅子も長時間すわることは想定していないですよね。どのようなことを重視してデザインされていますか。
鬼木:大型店舗だと、お店のなかに4・5脚のスツールを入れてデザインしています。ただ、どこに置くかというのはじつは設定していなくて、お店のほうで必要な箇所に持っていけるようにと考えているんです。だから、簡単に持ち運べることがすごく重要になってきます。頑丈でありながら軽くて持ち運びやすく、安定性があることなどを考えながらデザインしています。

聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。