COLUMN

2020年6月22日

場所の魅力を最大限に活かして、ひとのこころを動かす空間をつくる Vol.3
「効果」のための引き算のデザイン:TOTO インドネシア新社屋、W.atelier


プロジェクト・ディレクター 大久保敏之
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
TOTO インドネシア新社屋
流れる水をイメージした映像を用いたESC吹き抜け
国内外のさまざまなプロジェクトを通じて、
訪れたひとの心に訴求する空間づくりを手がけているフィールドフォー・デザインオフィス。
そのヒントについて、プロジェクト・ディレクターの大久保敏之さんにうかがいました。
海外でも多くのプロジェクトを手がけられておられます。文化や社会、気候、建材・構法、仕事の進め方など日本との違いはさまざまだとおもいますが、海外ならではのエピソードをお聞かせいただけますか?
大久保さん(以下:大久保)
ひとつには、日本と同じ建材が手に入らないといった苦労があります。「TOTO インドネシア新社屋」では、コーポレートカラーのブルーを表現するためにアルミ材を使いたかったのですが、インドネシア国内では製造や入手が難しく、かといって、輸入すると200%前後といった関税がかかることもあり、コスト的には難しかったのです。そこで、材料ありきではなく、あくまでもデザインの効果を求めて柔軟に対応していきました。
つまり、現地で調達できる素材や技術で、目的とする体験、ここでは輝きや光の反射を実現していきました。日本では簡単に実現できるものを何度も検討することになりましたが、かえって面白い質感が実現したというところもありますね(笑)。
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
TOTO インドネシア新社屋
風景を映す清涼な水をイメージしたエントランス
表現上の好みの違いについてはいかがですか?
大久保
東南アジアでよく好まれるデザインは、日本人にとっては密度が高すぎると感じられることがあります。現地リサーチすると、空間にさらに何かを足していくようなデザインがとても多いのです。これは業界の仕組みやプロセスの過度な分業化とその統合力が不在なことが要因かと思います。これに対して、私たちはやみくもな装飾を控え、引き算のデザインを心がけました。たとえば、窓まわりで上から下まで降りてくるサッシュを途中までにおさえて庭が見えるようにしたり、吹き抜けとファサードデザインを一体化することによって構成を明快にする、といったことをして、空間に置かれたモノや人が主役になれる場創りを心がけました。
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
TOTO インドネシア新社屋
吹き抜けとファサードデザインを一体化した
エグゼクティブエリア
シンガポールの「W.atelier」も家具やサニタリーのショールームとしての設計です。最近はネット通販が身近になっていることもあってショールームの役割も変わってきているかとおもいますが、デザイン面ではいかがですか?
大久保
たしかに、ショールームのデザインでも、求められることが変わってきています。ショールームの空間の主役はあくまでも商品でそれを選ぶことが目的なのですが、間の時間・空間をどうデザインするかが大切です。ショールームに並んでいる商品のブランドイメージ創りは世界共通ですが、たとえば、営業担当者とお客さまが一緒に移動してコミュニケーションをとっているときに、そのショールームならではのポリシーが見えてくるわけです。ここでは、エスカレーターやエレベーターといった「間」の体験をどのようにつくり込むかがポイントだと考えました。
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
W.atelier
ELVシャフトを利用したチェアタワー
PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
W.atelier
間の時間・空間として階段や
エレベーターを大切にしている
大久保さんにとって、デザインのお仕事の原点は?
大久保
幼稚園に入るよりも前から、宇宙船や秘密基地の断面図を描くのが好きでした。宇宙人が攻めてきたとか、火山が噴火したといったことを想像して(笑)。断面だと人の営みが見えるので、自分のストーリーの中に入り込みやすいんですね。断面だから、建築のファサードみたいなものも必要になるし、ランドスケープとも連続している。そう振り返ってみると、建築とインテリアとランドスケープの間に境界を設けないといういまの仕事の考え方も、そこに集約されています。プロダクトや制度、法律までもがデザインとつながっているわけですから、これからも領域を分けて考えたりせずに、デザインを通じてより良い環境をつくっていきたいです。

PROFILE

大久保敏之 TOSHIYUKI OKUBO
プロジェクト・ディレクター
1969年生まれ。多摩美術大学美術学部立体デザイン学科卒業。多摩大学大学院MBAコース 修了。
1992~98年、清水建設株式会社 建築設計本部勤務を経て、1998年からフィールドフォー・デザインオフィス。企業のイノベーション・知識創造をデザインで実現するため、CIからインテリア・ランドスケープまで境界なく最適なデザインを提案している。近作ではJA(農協)のイノベーションラボ「AgVentureLab」のデザイン担当。
聞き手
牧尾晴喜 HARUKI MAKIO

建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。

このコラムでは、人々が集う居心地のよいインテリア空間をつくりだしている、国内外で活躍されているデザイナーへインタビューをしていきます!

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連載記事

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