COLUMN

場所の魅力を最大限に活かして、ひとのこころを動かす空間をつくる Vol.2

用途やジャンルを超えたデザイン:109シネマズグランベリーパーク、G-BASE田町


国内外のさまざまなプロジェクトを通じて、訪れたひとの心に訴求する空間づくりを手がけているフィールドフォー・デザインオフィス。そのヒントについて、プロジェクト・ディレクターの大久保敏之さんにうかがいました。

-南町田に2019年11月にオープンしました「109シネマズグランベリーパーク」についてお聞かせください。既存施設のリニューアルにともなう新しいシネマコンプレックスですが、どのような工夫をされていますか?

大久保さん(以下:大久保)
集客について考えると、都心の立地であればいわゆる「一見さん」を主な対象にすることもありえます。ただしここでは、南町田という公園と住宅街に近接した映画館なので、リピーターを獲得する仕かけが必要だと考えました。ロビーの中央にある既存の柱を大きな樹に見立てて、シンボルツリーとしてデザインしています。時間によっては樹の中からキャラクターが顔を出したり、夜になると外の光が落ちるので樹が目立ってくる、といった感じで、一日や四季を通じた変化を楽しんでいただけるように工夫しました。たとえ映画を観ないときでも、南町田グランベリーパークという施設に来たついでに立ち寄りたくなるような、親しみやすい場所です。親子で記念撮影をしている人もおられて、とてもうれしいですね。

109シネマズ二子玉川rn屋上庭園とロビーをつなぎ 施設全体の回遊性を高めた大階段

-清水建設と三井不動産様との共同事業による賃貸オフィスビル「G-BASE田町」では、インテリアとランドスケープの両方を手がけておられます。建築の「大樹」というコンセプトワードを受け、ランドスケープは「林床」、インテリアは「木登り」と、一体的なデザインをされていますね。

G-BASE田町rn(左)外部の光や風景を取り込むステンレス仕上げの内部空間 (右)内外に連続する素材と造形

大久保
建築とランドスケープとインテリアには密接な関係があるにもかかわらず、デザイナーたちが異なる組織・部門に所属していて連携が難しいことが多いのですが、このプロジェクトでは初期から連携しました。このような進め方ができるのは、清水建設グループである私たちの特長です。プロジェクトの全体的な情報を設計初期から入手でき、建築・ランドスケープ・インテリアの専門デザインチームの密なコラボレーションにより、互いにコンセプトが共有され、ときに越境したデザインを行います。

-ホテル、オフィス、シアターなどさまざまな用途の物件を手がけられていますが、設計をするにあたって、ジャンルが違っても常に心がけていることはありますか?

大久保:
まず一つ目は、当然のこととして、デザイナーはモノの具現化に長けていなければいけません。ですがそれだけではなく、経産省の「デザイン経営宣言」にもあるように、前提・与条件そのものをデザインすることも求められるようになりました。
今の時代は変化のサイクルが短いので、建物の計画からオープンに至るまでの数年の間で技術や状況が大きく違うこともあります。たとえば二子玉川の109シネマズでは、建築計画時にはフィルム映写機を前提とした設計でしたが、いまはデジタルプロジェクターを使う時代へと変化し、当初建築計画にあった映写フロアをなくし、建築全体計画への新たな提案として、開かれた劇業としての大階段でロビーと屋上庭園をつなぎ、施設全体の回遊性を高めました。
二つ目は、抽象的なコンセプトを強く持ち、クライアントと共有することで、もし材料や施工方法が変わったとしてもデザインの本質は達成できます。クライアントの先にいる、実際に建物を使用するお客様がなにを得られるかということをイメージし、その空間でどういう効果・利益を得たいか、どういう感覚を受けたいかというゴールを共有しておくことが最も大切だと考えています。

大久保敏之

大久保敏之 大久保敏之

1969年生まれ。多摩美術大学美術学部立体デザイン学科卒業。多摩大学大学院MBAコース 修了。rn1992~98年、清水建設株式会社 建築設計本部勤務を経て、1998年からフィールドフォー・デザインオフィス。企業のイノベーション・知識創造をデザインで実現するため、CIからインテリア・ランドスケープまで境界なく最適なデザインを提案している。近作ではJA(農協)のイノベーションラボ「AgVentureLab」のデザイン担当。

聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。

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