国内外のさまざまなプロジェクトを通じて、
訪れたひとの心に訴求する空間づくりを手がけているフィールドフォー・デザインオフィス。
そのヒントについて、プロジェクト・ディレクターの大久保敏之さんにうかがいました。
-「フクラシア丸の内オアゾ」は、ホテルラウンジとは異なる会議室ならではの空間ですね。エントランスロビーでは青色の光がとても印象的です。
大久保さん(以下:大久保):ありがとうございます。まず「フクラシア」とは、研修特化型ホテルの運営やケータリングサービスを展開されている株式会社マックスパート様が2012年から始められた貸会議室ビジネスのブランドです。2012年の1号店にインテリアデザイナーとして参画させていただいてから、現在6店舗目となります。今回の立地は東京駅前、丸の内のビル街から駅側に開けていて、高層階に位置することもあって、開放的で空が感じられる場所です。その魅力を生かすために、ロビーの壁と天井にはアルミの反射材を使用し、空の広がりのような感覚を室内側に取り込むようなデザインを心がけました。これは、空間に対して何かを加えて良さを作りだすという「足し算」のような設計ではなく、その建築や場所にある素の魅力を最も活かすことを常に意識していることによります。私たちは総合建設グループのデザイン事務所であり、日頃から連携して建築や環境価値を高めるデザインを心がけているんです。

フクラシアロゴ
VI(ビジュアルアイデンティティ)デザインも担当
-カンファレンスや研修などで、利用者の方々がここで長く過ごされることもあるようですが、デザイン上で工夫されたことを教えていただけますか?
大久保:場所に加え、「時」も大切にしています。長く過ごす場所こそ変化が重要です。ここでは変化を光で表現しました。昼間は光が窓から横向きに入り、陽が落ちると今度は下側からの照明によって室内が明るくなっていく、というように光の方向性を逆転させました。これを単に機械で制御するのではなく、自然に実現しています。

ホテルフクラシア大阪ベイ/PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI、Field Four Design Office
-各地のホテルフクラシアのデザインを手がけておられ、「ホテルフクラシア大阪ベイ」では研修特化型ホテルというコンセプトがユニークですね。通常のホテルの設計とは、どのような違いがありましたか?
大久保:研修特化型ホテルとして営業していたこのホテルは名称を「フクラシア」ブランド統一により改称し、VI(ビジュアルアイデンティティ)のデザインも担当させていただきました。より深くブランドの特徴を理解したうえで、研修に使われるとともに、宿泊で長い時間を過ごす空間ならではのデザインを考えました。
自習コーナーを作るだけでなく、朝から夕方までのオフィシャルな集合研修の時間以外でのコミュニケーションの密度をどのようにして高められるかが設計のポイントでした。たとえば夕食やお風呂を済ませてから寝るまでの間は、リラックスした服装や部屋着でお化粧も落としていたりするわけですから、仕事で会ったばかりのひとと一緒だと落ち着かないですよね。ですから、そういうフォーマルとインフォーマルの場面でのコミュニケーションの明確な違いを、光の色や柔らかさでサポートすることを目指しました。

PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI
-ただ単に距離を縮めれば良いということでもないんですね。
大久保:そうですね。コミュニケーションを促す一方で、その度合いを調整する仕かけも大切です。宿泊研修ではまだそれほど親しくない方同士が同室に泊まることもありますから、このツインルームでは、ベッドとベッドの間にパーソナルボックスという家具を設けました。スマホなどの置き場にもなるようにデザインしていますが、これによって寝ている間は隣のベッドが見えないようになっているので、自分の寝顔を気にすることなくリラックスしていただけます(笑)。

コミュニケーションを促す一方で、 その度合いを調整するベッド間のパーソナルボックス/PHOTO:Nacāsa & Partners Inc./HIROSHI TSUJITANI、Field Four Design Office
聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。