株式会社乃村工藝社のクリエイティブ本部のデザイナーとして
大阪の阪急三番街など多くの大型商業施設の内装に携わっている太田裕美子さん。
スタイリッシュでありながら、なおかつ長く愛される空間づくりのヒントをうかがいました。
-つづいて、環境設計のさまざまな要素、照明やモニュメントなどについてうかがっていきます。
阪急三番街北館と南館の間にある高架下道路、東西通路では、屋内というよりも屋外に近い空間のデザインを手がけておられますね。どのような工夫がありましたか?
太田さん(以下:太田):高架下はそのままでは暗い空間ですが、照明が明るすぎる状態にはしたくなかったんです。この空間の上を阪急電車が走っていて16本の列柱があるんですが90メートルの長さを飽きずに歩いていただけるように、この列柱に光壁をつくってリズムを生みだしました。

阪急三番街パブリックスペース(B2F)、光を使った砂時計のモニュメント
-同じく阪急三番街の地下2階にあるパブリックスペースでは、光をつかった砂時計のモニュメントが印象的です。
太田:待ち合わせスポットのデザインなんですが、ただアートモニュメントがあるだけでは面白味に欠けるなとおもい、何か驚きがあるものを考えようと取りくみました。阪急様という歴史も長いクライアントなので、昔からある時計の形である「砂時計」がいいのではないか、と考えました。ただ、普通の砂時計ではなく、クラシックな砂時計のフォルムや質感をモチーフにしながら、中に2,000粒のLEDを配置して未来的な要素を内包することで、コントラストを生み出して三番街の歩みと未来を表現しています。砂時計のように形を変えながらゆっくり流れていく光を見ていただけるように、ベンチも配置しました。

モニュメントには2,000粒のLEDが配置されている
-これだったらゆっくりと待ち合わせできそうですね。周辺の家具デザインではどのようなことを工夫されましたか?
太田:この場所は動線がまじわる場所でもあり、スクランブル交差点のようにかなり早歩きで通り過ぎていく人もいます。ですからお互いの邪魔にならないように、でもじっくりと座ってもらえるようにと、通路幅をかなり考慮して家具の配置や形状を決めましたね。
-梅田フードホールのロゴデザインや演出では、フクロウのフーホーというキャラクターが登場します。季節ごとに違いもあって、楽しそうです。「隠れキャラ」もいますね(笑)。
太田:そうなんです(笑)。こういったキャラクターは依頼されたのではなく、じつはこちらから自主的に提案をしていったものなんです。

梅田フードホールのロゴデザインや演出
-デザインのなかにいわゆる「アソビ」的な余裕があるのはステキですね。何か秘訣はありますか?
太田:そうですね、普段から、できるだけ仕事を楽しみながら手がけるようにしています。このフードホールの演出では季節のコンテンツ、というくらいの依頼から始まって全体のキャラクラーをデザインしたんですが、これが「かぶり物」だったら面白いよね、といった話から、風で帽子が飛ばされるシーンだったり、お化けのバージョンはもはやフクロウじゃないよね、といった感じでメンバー間で楽しみながら話がひろがっていきました。実はこのフクロウのキャラクターも、フードホールをフーホーって呼んでいたことからフクロウの鳴き声をイメージしてご提案に至りました。

フクロウのキャラクター、フーホー
-チームでデザインをまとめる際には、それぞれのメンバーの得意なことも把握しておく必要がありますね。社内にはかなり多くのデザイナーがおられるので大変かと思いますが、どのようにしていますか?
太田:そうですね、さすがに全員の得意分野を細かく把握するのは難しいですが、社内で定期的な交流の機会も設けられているので、そういったタイミングで声をかけたりします。プロジェクトによってチームの組み方はケースバイケースですが、たとえば、サイン計画が得意なデザイナーを筆頭に、とか、ファッションが得意ということで関連案件のチーム編成に声がかかる、といったこともありますね。
聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。
一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。