飲食店『千房』や『TORAJA COFFEE』など、多くの店舗やオフィスの設計を手がけている平野大偉さん。今回はインタビューの中でも特別コンテンツとして、相合家具ショールームとオフィスを中心に、
ブランディングにつながる空間づくりのお話をうかがいました。
(PHOTO:A.P.FIRST 荒木義久)
-相合家具の大阪ショールームにつづき、本社オフィスも設計されています。ショールームと同様に、ブルーの間接照明のエントランスでブランドイメージが統一されていますね。「見せる」ことも考慮されている空間ですが、オフィスなので見せたくない部分もあるでしょうし、どのような工夫がありましたか?
平野さん(以下:平野):そうですね、ブランドとしてのイメージを発信したいという想いはありつつ、一方で、執務室がオープンなのは困る、という現場スタッフの方々からの声もありました。そこで、執務室の壁の高さを傾斜させるように工夫しています。つまり、入口付近では900mmと腰くらいの高さで視線も通りますが、奥では2,000mmと身長よりも高くなっているので、来社されたお客様が通路を進むにつれて内部が見えなくなっていくという仕かけです。デスクまわりや足元の荷物など日常業務で煩雑になりがちな部分は極力目につかないようになっていて、空間的にもこの傾斜壁が大きな要素になっています。


-椅子や家具はどのように選定されましたか?
平野:家具メーカーのオフィスということもあり、この物件については、ひとりで設計しているというつもりはまったくなくて、スタッフの方々とやりとりをしながら決めていきました。以前には存在しなかった「コミュニケーションルーム」など実験的な空間も設けていますが、空間を有効に使えるよう、どういうレイアウトでどういう椅子をつかうかといった使い方のイメージは、スタッフの方々とも一緒に考えていったんです。

-ここでも、オフィスが変わったことでスタッフの方々の働き方にも変化があったとか?
平野:ぼくがかつて相合家具に在籍していた10年以上前のころは、倉庫の一室で仕事をしているような時期もあったんです(笑)。それがオフィスのリニューアルで、スタッフの方々のモチベーションアップにもつながっています。 いちばん嬉しいのは、社員さんからの反応が予想以上だったことです。こうしてハコとしてのオフィスを作らせてもらったわけですが、ハコのなかに置かれるものまで変わりました。たとえば、以前にはなかったようなオシャレな棚やデザイン本が追加されていたり、加湿器なども単に値段だけでなくデザイン面も考慮されたものが選ばれていたり。BGMや着ているスーツも変わってきたという話を聞いています。空間によって、そこで働くひとの価値観や意識が変わってくるんですね。単に空間をつくって終わり、ではなく、そうやって価値観や意識まで変わってこそ、企業やブランドの成長かと考えています。

聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。 一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。