飲食店『千房』や『TORAJA COFFEE』など、多くの店舗やオフィスの設計を手がけている平野大偉さん。今回はインタビューの中でも特別コンテンツとして、相合家具ショールームとオフィスを中心に、
ブランディングにつながる空間づくりのお話をうかがいました。
-まずは、相合家具製作所の大阪ショールームのお話からうかがいます。ブルーの照明が輝くエントランスが印象的です。
平野さん(以下:平野):ありがとうございます。このショールームは路面店ではなくオフィスビルの2階にあるんです。一般的なオフィスビルのなかでも相合家具というブランドの世界観をできるだけ感じていただきたかったので、入口からショールームまで、約10mのエントランスを贅沢につかう計画としました。ブルーの光でファーストインパクトがあって、この10mを歩いているうちに、街中の雑踏や、ボタンを押してエレベーターを上がってきたことを忘れるようになるんじゃないか、と。昔から相合家具でつかわれているコーポレートカラーを活かした間接照明としています。

-ショールームの中央には、情報発信とコミュニケーションの場として、無垢材を積み上げた「コミュニケーションカウンター」が設置されています。ショールームにこのようなカウンターが設けられることは珍しいのではないかとおもいますが、どのような経緯で?
平野:一般的に、ショールームって静かで入りにくいというイメージがあると思うんです。商品を引き立てるための空間ですから、それはそれでアリなんですが、このショールームでは、ひとが集まれる空間をつくろうという話がありました。昔から、ひとが集まる場所には木がありますよね。木の切り株で休憩したり、雨がふれば大きな木のしたに集まったり……。そういうイメージを膨らませました。
ただ木材を使ったカウンターというだけではなくて、木が製材される前の質感や存在感、重量感といったものが伝わるような仕上げにしています。また、カウンターのローテーブルでは、相合家具製品のアルミ素材の天板をはめ込みました。アルミ、ガラス、光といった異なる素材や要素を組みこむことで、木材のカウンターの存在感がいっそう強くなるようにしているんです。


-ショールームと営業所オフィスの境界はガラス張りになっていますね。
平野:はい、ショールームに来られたお客様にもオフィスで働いている姿が見えます。働いているところをあえて見せることで、スタッフの方々の一層の意識向上につなげようという意図から、そのような計画となっています。じつは当初、実際に働いている現場からは反対の声もありました。「ガラス越しに見られていると、落ち着いて仕事ができない」と。そこで折衷案の準備もしていました。ひとの動きや気配だけを伝えるように、模様を印刷したシートをガラスに貼れるようにしていたんです。ただ、そのシート貼る前に会長が来られて、これでやってみよう、と(笑)。スタッフの方々にも話をうかがうと、一か月くらいで慣れたようです。また、働き方だけでなく、服装や身だしなみ、言葉づかいまで変わってきて、まさにこのような形のショールームを作った意図が達成されています。

聞き手:牧尾晴喜 HARUKI MAKIO
建築やデザイン関係の翻訳・通訳などを通じて、価値ある素材やデザインがより多くのひとに届くようにサポートしている。フレーズクレーズ代表。一見普通だけれどちょっとこだわりのある家具や空間が好き。