Design to Shape

SOGOKAGUのアイコンとなるチェア
Edition No.5:TENNE
張り職人によって生まれたイス
SOGOKAGUの商品のうち、ほとんどの商品はインハウスのデザイナーが手掛けています。デザイナーにデザインを依頼することも素晴らしいとは思いますが、SOGOKAGUは「良いデザインを自分たちの手で」という想いでものづくりをしています。そのほとんどの商品は商品企画部という部署でデザインから設計まで行いますが、テンネのデザインを生み出したのは、SOGOKAGUの誇りでもある椅子張りの専門部隊が所属する、生産グループの一人の張り職人でした。

彼はまだ30代前半の若手です。デザインの専門学校でプロダクトデザインを学び、SOGOKAGUへ入社しました。学生の頃にウェグナーを知り、自ら手を動かしながらデザインをすることに興味を持ち始め、イームズとの出会いが「イスを作る仕事」への関心へと変わっていきました。SOGOKAGUは全社員に対しデザイン提案の門戸を開いています。入社後、彼は張り職人として働きながら、そのデザインセンスの良さから、これまでに数々のデザインが採用され、SOGOKAGUのデザインをリードする存在となりました。
モールドウレタンのアイコンとなるイスを
テンネが生まれたときは、ひとつのテーマが与えられていました。「モールドウレタンでSOGOKAGUのアイコンとなり得る商品」。モールドウレタンでアイコニックなデザインを考えたとき、彼が最初に考えたのは「1枚の布で張りが完結する」商品でした。モールドウレタンは自由な三次曲面が可能になるのが最大の特徴ですが、それは同時に張りの難しさにもつながります。縫製ラインを増やせばある程度可能にはなりますが、それは「美しさ」を損なうことにもなるのです。

どうにか1枚の布で美しく張れるイスはできないものか―。そう考えた彼が導き出したのは「1枚の布を弛ませたような」デザインでした。人が最も美しいと感じる自然の造形の中に、「カテナリー曲線」というものがあります。ネックレスの端を両手でつまんだ時にできるような、重力が生み出す自然の曲線です。このカテナリー曲線になぞらえて、1枚の布の弛みをイメージしたデザインの開発が始まります。

THE PROCESS

試作との闘い
しかし、この布が弛んだような曲線のイスの開発は混迷を極めます。「自然な弛み」を生み出すために、実際に布を弛ませてみたり、紙や粘土で造形を作っては3Dソフトで実際に描いてみたりを何度も繰り返します。最終的には金属メッシュがもっとも形状を形作るのに適していることが分かり、金属メッシュで形作ったラインを3Dソフトで描いては3Dプリンターで出力することを繰り返しました。見た目の美しさだけではなく座り心地や、当初の目的であった「1枚の布で張れる」イスを作るため、10個以上の試作を作って検証しました。その開発の経緯には、彼の張り職人としての経験も大きく影響をしていたのです。

天衣無縫
そうした試行錯誤を繰り返して完成したテンネは、美しい弛みのライン、縫製ラインの少ない1枚の布をまとったような形状、モールドウレタンででき得る可能な限りの薄さといった、まさに「モールドウレタンのアイコン」となるようなイスとして完成しました。

当時テンネはギリシャ神話で芸術や工芸を司る女神の名を取って、「アテナ」と呼ばれていました。その後、紆余曲折を経て、天衣無縫(てんいむほう)という四字熟語から「テンネ」と名付けられました。天衣無縫とは物事に技巧などの形跡がなく自然なさまを言い、天人・天女の衣には縫い目がまったくないことから、わざとらしくなく、自然に作られていて巧みなことを意味します。まさに名前に恥じないSOGOKAGUが誇るモールドウレタンのアイコンとなるイスが完成しました。

デザイン力と張りの経験があったからこそ完成した、まさにモールドウレタンの究極のイスです。